景気回復などに伴う企業の人手不足感から、愛媛県内の有効求人倍率が3カ月連続で過去最高を更新している。ただ、求人の中身をみると、派遣社員やパートの割合が高く、「非正規」へのニーズが雇用情勢を底上げしている。そのため、求人・求職双方の間に待遇や労働条件などのミスマッチも散見されており、改善が実感できる雇用環境の整備が課題となっている。
 愛媛労働局がこのほど発表した5月の県内有効求人倍率は過去最高の1.47倍(季節調整値)。バブル経済期で、これまで長く最高記録だった1991年6月の1.38倍(同)を大きく上回っている。
 「求人増と求職減の傾向が続いている」と、倍率上昇の理由を分析する労働局の担当者。特に求人の増加傾向は著しく「離職率が低いことから、活発な企業活動を行うための『増員』要素が強い。全体的に人手不足」とする。
 5月の新規求人数(原数値)は1万1182人で、前年同月比12カ月連続の増加と右肩上がりだ。ただし、求人の約4割はパート。「産業構造の変化もあるため、比較は難しい」(労働局)というが、91年6月に比べると、求人に占めるパートの割合はほぼ倍増しているという。派遣社員は人材サービス業として一般求人に分類されるため、「非正規」というくくりでみると、その割合拡大はさらに大きくなる。
 こうした状況に対し、労働経済に詳しい愛媛大法文学部の丹下晴喜准教授は「先行き不透明な経済状況が背景にあるため、企業は非正規で安価な労働力を雇用する傾向がある」と指摘。「正社員を非正規に置き換えることが求人数の増加につながっている可能性もある」と現在の雇用情勢を分析する。
 高水準で推移する有効求人倍率が就職件数の増加につながらない雇用のミスマッチも存在する。労働局によると、求職者数が減少すると、通常はそれにつれて就職率は上がる傾向にあるが、5月は前年同月より0.6ポイント低い38.0%にとどまっている。
 建設や福祉・介護関係の人手不足は特に顕著だが、「中途採用は即戦力を求めることもあり、資格や経験が壁になることも」と労働局。丹下准教授は労働環境や待遇といった「雇用の質の低さ」をミスマッチの要因に挙げる。
 英国の欧州連合(EU)離脱決定や新興国経済の減速などを受け、世界経済の下ぶれ懸念は高まっている。数字だけでなく、内実を伴った雇用情勢の改善に注目が集まっている。