「写真撮るんか? なら、これをかぶらんといかんのう」。藤沢太さん(87)は誇らしげに船員帽を手に取った。平均年齢80歳の13人が暮らす愛媛県今治市吉海町の津島。今月下旬に米寿を迎える島最高齢の藤沢さんは、海上タクシーや郵便船の船長として島民の暮らしを支え続ける。
 津島は大島の沖合1キロにある離島で、吉海町の幸港などを結ぶ計4往復の定期船がある。戦後は600人以上が暮らし、多くは船主や船員の家だった。
 藤沢さんも14歳で父が所有する石炭船の乗組員になった。北九州で荷を積み、神戸や名古屋に運んだ。1949年に父が亡くなった後は船長として石炭船を走らせた。
 60年代に転機が訪れた。エネルギー革命や陸上交通の発達で荷が激減した。「下におる9人のきょうだいを食わさんといかんが、船を動かせば動かすほど赤字が出る。情けないが、やめるしかなかった」。65年ごろ4隻あった石炭船を売却し、海上タクシーと郵便船の運航を始めた。
 毎朝8時、津島から約10分の今治市吉海町幸港に向かう。車に乗り換え、吉海郵便局で郵便物を受け取り島に戻る。「毎日、1通か2通よ」と笑うが、1日も休まず通い続ける。